枕草子(まくらのそうし) 抜粋(ばっすい)

清少納言(せいしょうなごん)



 

第一段(だいいちだん)

 (はる)(あけぼの)やうやう(しろ)なりゆく山際(やまぎは)すこし()かりて、(むらさき)()ちたる(くも)(ほそ)たなびきたる。

 (なつ)(よる)(つき)ころはさらなり、(やみ)なほ、(ほたる)(おほ)()(ちが)ひたる。また、ただ(ひと)(ふた)つなど、ほのかにうち(ひか)りて()くもをかし。(あめ)など()るもをかし。

 (あき)夕暮(ゆふぐ)れ。夕日(ゆふひ)さして、(やま)()いと(ちか)なりたるに、(からす)寝所(ねどころ)()くとて、()()(ふた)つなど、()(いそ)ぐさへあはれなり。まいて、(かり)などの(つら)ねたるが、いと(ちい)さく()ゆるは、いとをかし。()()()てて、(かぜ)(おと)(むし)()など、はた()ふべきにあらず。

 (ふゆ)早朝(つとめて)(ゆき)()りたるは、()ふべきにもあらず、(しも)いと(しろ)きも、またさらでも、いと(さむ)きに、()など(いそ)ぎおこして、(すみ)()(わた)るも、いとつきづきし。(ひる)なりて、ぬるくゆるびもていけば、炭櫃(すびつ)火桶(ひをけ)()(しろ)(はひ)がちになりて、わろし。


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  • 枕草子
  • 春は曙 一
  • ころは正月 ニ
  • 大進生昌が家に 五
  • 清涼殿の丑寅の隅の 二〇
  • 生ひ先なく 二一
  • すさまじきもの 二二
  • にくきもの 二五
  • 心ときめきするもの 二六
  • 過ぎにし方恋しきもの 二七
  • 七月ばかり、いみじう暑ければ 三三
  • 木の花は 三四
  • 節は 三六
  • 鳥は 三八
  • あてなるもの 三九
  • 虫は 四〇
  • 七月ばかりに、風いたう吹きて 四一
  • にげなきもの 四二
  • 職の御曹司の西面の 四六
  • 河は 五九
  • 暁に帰らむ人は 六十
  • 草の花は 六四
  • ありがたきもの 七二
  • 内裏の局は 七三
  • 頭の中将の、すずろなる虚言を 七八
  • 里にまかでたるに 八〇
  • 無名といふ 八九
  • ねたきもの 九一
  • かたはらいたきもの 九二
  • あさましきもの 九三
  • くちをしきもの 九四
  • 五月の御精進のほど 九五
  • 中納言参り給ひて 九八
  • 淑景舎、東宮に 一〇〇
  • 見苦しきもの 一〇五
  • 常より異に聞こゆるもの 一一一
  • 絵に描き劣りするもの 一一二
  • 描きまさりするもの 一一三
  • 正月に寺に籠りたるは 一一六
  • わびしげに見ゆるもの 一一八
  • 恥づかしきもの 一二〇
  • 無徳なるもの 一二一
  • はしたなきもの 一二三
  • 九月ばかり、夜一夜降り明かし 一二六
  • 頭の弁の、職に参り給ひて 一三一
  • つれづれなるもの 一三四
  • つれづれ慰むもの 一三五
  • 殿などのおはしまさで 一三八
  • 恐ろしげなるもの 一四二
  • いやしげなるもの 一四四
  • 胸つぶるるもの 一四五
  • うつくしきもの 一四六
  • 人ばへするもの 一四七
  • むつかしげなるもの 一五〇
  • 近うて遠きもの 一六一
  • 遠くて近きもの 一六二
  • 女の一人住む所は 一七三
  • 宮仕へ人の里なども 一七四
  • 宮に始めて参りたるころ 一七九
  • 病は 一八三
  • ふと心劣りとかするものは 一八八
  • 風は 一九〇
  • 野分のまたの日こそ 一九一
  • 五月ばかりなどに 二〇九
  • 九月二十日余りのほど 二一四
  • 月のいと明かきに 二一八
  • 大きにてよきもの 二一九
  • 短くてありぬべきもの 二二〇
  • ただ過ぎに過ぐるもの 二四五
  • 殊に人に知られぬもの 二四六
  • 世の中に、なほいと心憂き 二五二 
  • 人の上言ふを腹立つ人こそ 二五五
  • うれしきもの 二六一
  • 雪のいと高う降りたるを 二八四 
  • この草子、目に見え あとがき
  • デイジー図書奥付